ケアラー自身の心身の波を乗りこなす:良い日も悪い日もある日々のセルフマネジメント
日々のケアを続ける中で、自身の心身の波に気づくこと
メンタルヘルスを抱える大切なご家族のケアは、予測できない波がある中で続いていくものです。ご家族の体調や状況に波があるように、ケアラーであるご自身の体調や感情、そしてケアへの向き合い方にも、日によって波があるのは自然なことです。
常に一定のエネルギーや気持ちでケアに臨むことは、現実的には難しいでしょう。しかし、「ケアラーだから常に強くあらねばならない」「家族のために頑張り続けなければならない」といった考えがあると、自身の心身の波に気づきにくくなったり、波がある状態を「良くないこと」として否定してしまったりすることがあります。
ご自身の波に気づき、それを受け入れ、柔軟に対応していくことは、長期的なケアを続ける上で非常に重要なセルフマネジメントの一つです。今回は、ケアラー自身の日々の波に気づき、それをどう乗りこなしていくかについて考えてみたいと思います。
あなたにとっての「良い日」と「悪い日」とは
ご自身の心身の状態における「波」とは、どのような時に現れるでしょうか。それは日によって、あるいは時間帯によって変化する体調や気分、集中力、そしてケアへの意欲などを指します。
例えば、「良い日」と感じるのは、 * 体調が比較的良い * 気分が安定している * 集中力がある * ご家族の状態が落ち着いている * ケア以外の自分の時間が持てる
といった時かもしれません。一方、「悪い日」と感じるのは、 * 体が重い、だるい * イライラしやすい、落ち込みやすい * 何も手につかない、集中できない * ご家族の状態が不安定である * 仕事や他のことでトラブルがあった
といった時かもしれません。これらの波は、ご家族の状態だけでなく、天候、睡眠時間、職場の出来事、人間関係、あるいは特に理由もなく訪れることもあります。
なぜ自身の波に気づくことが重要なのか
自身の心身の波に気づくことは、いくつかの点で重要です。
- 限界サインの見落としを防ぐ 「悪い日」の状態が続いたり、波が極端になったりすることは、心身の疲労やストレスが蓄積しているサインかもしれません。早期に気づくことで、燃え尽きや体調不良の深刻化を防ぐことにつながります。
- 客観的な状況把握 自身の状態を客観的に把握することで、「なぜ今日はこんなに疲れているのだろう」「なぜこんなにイライラするのだろう」と原因を考えるきっかけになります。それは、ご家族の状態だけではなく、ご自身のケアの負担や生活環境に目を向けることにも繋がります。
- ケアの質とご家族への影響 ケアラー自身の心身の状態は、ご家族への関わり方にも影響を与えます。「悪い日」には、いつもより感情的に対応してしまったり、必要なケアが手薄になってしまったりする可能性も考えられます。自身の状態を認識することで、意識的に対応を調整することも可能になります。
- 自己肯定感の維持 波があることを認めず、「いつも完璧でなければ」と思っていると、「悪い日」の自分を責めてしまいがちです。波があるのは自然なことだと受け入れることは、自分自身を肯定的に捉える上で助けとなります。
自身の波に気づくための具体的な方法
自身の心身の波に気づくためには、日々の自分に少し意識を向ける習慣を持つことが役立ちます。
- 簡単な記録をつける 手帳やスマートフォンのメモアプリなどに、その日の体調や気分を簡単な言葉(例:「だるい」「落ち着いている」「イライラ」)で記録してみましょう。ご家族の状態や、印象的な出来事なども一緒に書いておくと、後で見返した時に波のパターンや原因が見えてくることがあります。数分でできる範囲で構いません。
- 内省の時間を設ける 一日の中で数分でも良いので、静かに自分自身に問いかけてみましょう。「今日の体調はどうかな」「どんな気持ちでいるかな」「何にエネルギーを使ったかな」といった簡単な問いかけでも十分です。
- 体や心の声に耳を傾ける 「なんだか体が重いな」「集中できないな」「いつもより疲れているな」といった感覚を見過ごさないようにしましょう。そうした感覚は、心身が休息や調整を求めているサインかもしれません。
「悪い日」を乗りこなすためのセルフマネジメント
自身の状態が「悪い日」だと気づいた時、どのように過ごすかが重要です。無理に「良い日」と同じように振る舞おうとせず、その状態を受け入れた上で、負担を軽減する方法を考えます。
- 完璧主義を手放す 「今日はこれだけできれば十分」と目標レベルを下げてみましょう。完璧を目指さないことで、必要以上のプレッシャーから解放されます。
- 優先順位の再調整 本当に今日やらなければならないことは何かを見極め、それ以外は後回しにしたり、場合によっては思い切ってやめたりすることも検討します。
- 誰かに頼る 可能であれば、ご家族以外の信頼できる人(友人、親戚)や、利用できる社会資源(ヘルパー、ショートステイなど)に頼ることを検討しましょう。一人で抱え込まないことが大切です。
- 無理のない休息 短時間でも良いので、意識的に休憩をとります。静かな場所で目を閉じる、好きな音楽を聴く、温かい飲み物を飲むなど、心身がリラックスできる時間を作りましょう。
- 気分転換の方法を知っておく 短い時間でできる気分転換の方法(軽い散歩、ストレッチ、深呼吸、好きな動画を見るなど)をいくつか用意しておくと役立ちます。
- ネガティブな感情を認める イライラや落ち込み、不安といったネガティブな感情があることを認め、「今はこんな気持ちなんだな」と客観的に観察する練習をします。感情に飲み込まれそうになったら、意識的に呼吸を整えることも助けになります。
- 専門家への相談 「悪い日」が長く続く、気分の落ち込みが激しい、何もする気が起きないといった場合は、一人で抱え込まず、医療機関やカウンセラーなどの専門家に相談することを検討してください。
「良い日」を活かすためのセルフマネジメント
「良い日」は、エネルギーがある時です。このエネルギーを、今後のために有効に使うことを考えましょう。
- 少し先の準備 体調が良い時に、数日分の食事の準備をまとめて行う、必要な手続きや連絡を済ませておく、家の片付けを少し進めておくなど、エネルギーが必要なことを済ませておくと、後日の「悪い日」の負担を減らすことができます。
- 自身の休息や楽しみ 「良い日」だからといって無理に活動しすぎず、自身の休息や楽しみのために時間を使うことも大切です。趣味の時間を持つ、友人と連絡をとる、行きたかった場所へ少し出かけるなど、自分が心から楽しめる時間を持つことで、エネルギーを充電することができます。
- ポジティブな感情を味わう ご家族との穏やかな時間や、自分の努力が報われた瞬間など、「良い日」に感じた感謝や喜びといったポジティブな感情を意識的に味わいましょう。それは、困難な日を乗り越える力になります。
長期的な視点:波と共に生きる
ケアは長期にわたることが多く、日々の波とどう向き合っていくかは、ケアラー自身の持続可能性に関わります。波があることを前提として、柔軟なケア計画を立てることが理想的です。
常に一定の「完璧なケアラー」であろうとせず、「今日はこういう日だから、これだけやろう」「今日は調子が良いから、少し頑張ってみよう」といったように、ご自身の状態に合わせて調整していく視点を持つことが、心身の健康を保つ上で重要です。
また、自身の波を理解してくれる人との繋がりを持つことも助けになります。同じケアラー仲間との情報交換や共感は、一人ではないという安心感につながり、「悪い日」を乗り越える心の支えとなります。
ケアラーであるあなたへ
日々のケア、本当にお疲れ様です。あなたは、ご家族のために精一杯努力されています。
あなたが感じる日々の体調や感情の波は、弱いからではありません。それは、あなたが懸命に生き、ケアに向き合っている証です。自分自身の波に気づき、受け入れ、大切にすることは、決して自己中心的ではなく、むしろご家族にとっても必要な、ケアを続けるための大切な自己投資です。
良い日も、そうでない日も、そのままの自分を許し、時には立ち止まり、休息を求めても良いのです。あなたの心身の健康が、ケアの基盤となります。ご自身の波を乗りこなしていくことが、ケアラーとしての道を、あなたらしく歩んでいく力となることを願っています。
まとめ
ケアラーとしての日々には、ご家族の状態だけでなく、ケアラー自身の心身にも波があります。この波に気づき、それを自然なこととして受け入れることは、燃え尽きを防ぎ、長期的にケアを続けていく上で不可欠なセルフマネジメントです。簡単な記録や内省で自身の波を把握し、「悪い日」には無理をせず休息や他者への依頼を検討し、「良い日」には先の準備や自身の充電に時間を使うなど、柔軟に対応していくことが大切です。一人で抱え込まず、周囲のサポートも活用しながら、自身の心身の波と上手に付き合っていくことが、ケアラー自身の持続可能な日々へと繋がります。