ケアラーズ・ボイス

家族のメンタルケア、きょうだい間の負担格差に向き合う

Tags: 家族関係, きょうだい, ケア分担, コミュニケーション, ケアラー支援

家族のメンタルケア、きょうだい間の負担格差に向き合う

家族の誰かがメンタルヘルスの課題を抱えたとき、そのケアは多くの労力と精神的なエネルギーを伴います。特に、複数のきょうだいがいる場合、本来であればその負担は分かち合われるべきものかもしれません。しかし、現実には特定のきょうだいにケアの負担が集中してしまうケースは少なくありません。これは、ケアを担う側にとって心身の疲弊を招くだけでなく、きょうだい間の関係性にも大きな溝を生む原因となり得ます。

なぜ、ケアの負担はきょうだい間で偏りがちなのか。そこには、地理的な距離、それぞれの仕事や家庭の状況、これまでの親子関係、個人の性格やスキル、そしてメンタルヘルスに関する理解度や関心の違いなど、様々な要因が複雑に絡み合っています。物理的に最も近いきょうだいが中心になる、あるいは幼少期から親の面倒を見てきた長女が自然と引き受ける、といったケースもあれば、特定のきょうだいがケアへの協力を避けたり、状況を十分に理解しようとしなかったりすることもあります。

このような負担の偏りは、ケアラー自身の孤立感を深め、「なぜ自分だけが」という不公平感や、きょうだいへの不満、時には怒りといった感情を募らせることにつながります。また、ケアに割く時間やエネルギーが増えることで、自身の仕事や生活、健康に影響が出始めることもあります。

では、このきょうだい間の負担格差に、私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか。ここでは、そのための考え方や具体的なアプローチについてご紹介します。

現状を「見える化」し、「公平」の定義を見直す

まず大切なのは、現状を客観的に把握することです。誰がどのようなケア(金銭管理、通院の付き添い、日々の声かけ、情報収集など)を、どのくらいの頻度で行っているのかを具体的に書き出してみることから始めてみましょう。これは、感情的になりがちな問題を、事実に基づいて整理するための第一歩です。

次に、「公平な分担」とは何かを考える必要があります。それは必ずしも「すべてのきょうだいが同じ時間、同じ量のケアをすること」を意味するわけではありません。それぞれのきょうだいには、それぞれの生活があり、できること・できないことがあります。ここで目指すべき「公平」とは、すべてのきょうだいが自身の状況に応じて、何らかの形でケアに関わり、ケアラーの負担を認識し、家族全体として納得できる形で役割を分担するということです。物理的なケアが難しければ、情報収集を担当する、専門家との連絡役を担う、定期的にケアラーの話を聞く、といった精神的なサポートや、必要に応じて経済的な支援を検討するなど、様々な関わり方があり得ます。

建設的な話し合いの場を持つ

負担の偏りについてきょうだいと話し合うことは、感情的な対立を招くのではないかという懸念から、多くのケアラーがためらいを感じるかもしれません。しかし、この問題に蓋をしたままでは、状況が改善することは難しいでしょう。

話し合いを持つ際には、以下の点を考慮すると、より建設的なものになりやすくなります。

外部リソースの活用を全員で検討する

きょうだい間の負担調整は、家族内で解決しようとすることに加えて、外部のサポートを積極的に活用することで、家族全体の負担を軽減するという視点も非常に重要です。地域の保健センター、精神保健福祉センター、相談支援事業所、地域の自助グループなどが利用できるリソースの例です。ケアマネージャー(介護保険サービス利用の場合)やソーシャルワーカーといった専門家は、利用できる制度やサービスについて情報提供し、利用に向けたサポートをしてくれます。

これらの外部リソースについて、きょうだい全員で情報共有したり、共に相談に行ったりすることで、「家族だけで抱え込まなくても良いのだ」という認識を共有し、ケアへの関わり方を新たな視点で見直すきっかけとなることもあります。

ご自身の心と体を守るために

きょうだい間の負担の偏りに悩む状況は、ケアラーにとって非常に辛いものです。このような状況に置かれていること自体、あなたが一人で多くのことを抱え込んでいる証でもあります。まずは、その大変さを認め、ご自身を責めないでください。

きょうだいとの関係性がすぐに改善しなかったとしても、話し合いを試みたこと、現状を変えようと努力したこと自体に意味があります。そして何より、ご自身の心身の健康を最優先に考えることを忘れないでください。休息をとる、好きなことをする時間を持つ、信頼できる人に話を聞いてもらう、専門機関に自身のケアに関する相談をするなど、セルフケアのための行動を意識的に取り入れていきましょう。

この問題は、多くのケアラーが経験する共通の困難です。一人で抱え込まず、他のケアラーの経験談に耳を傾けたり、自身の悩みを共有したりすることも、孤立感を和らげ、前に進むための力となるはずです。