ケアラーズ・ボイス

長期化する家族のメンタルケア:自身のキャリアパスとライフプランを再考するヒント

Tags: キャリア, ライフプラン, 両立支援, セルフケア, 長期ケア

長期化するケアの中で、自身の人生を見つめ直すということ

ご家族のメンタルケアに日々向き合われている皆様、本当にお疲れ様です。ケアが始まった頃は予期していなかったとしても、その期間が数年、あるいはそれ以上に及ぶことは少なくありません。ケアが長期化するにつれて、ご自身の仕事やキャリア、そしてこれからの人生について、「このままで良いのだろうか」「自分自身の将来はどうなるのだろう」といった漠然とした不安や、具体的な疑問を抱かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

特に、働き盛りの世代、子育てや自身のキャリア形成といったライフイベントと重なる時期にケアを担われている場合、ケアの負担が自身の人生設計に大きな影響を及ぼすことは避けられない現実かもしれません。この変化にどう向き合い、自分自身のキャリアやライフプランをどのように再考していくかは、ケアを継続していく上で、そしてケアラーご自身が健やかに生きる上で、非常に大切なテーマとなります。

このテーマについて考えることは、時に胸が締め付けられるような感覚を伴うかもしれません。しかし、ご自身の人生を大切に考える視点を持つことは、決して後ろめたいことではなく、むしろケアラーとしての力を長く保つためにも必要なことです。

なぜ、ケアラーは自身のキャリアや人生設計を見つめ直す必要に迫られるのか

家族のメンタルケアが長期化すると、ケアラーは様々な形で影響を受けます。物理的な時間や労力の制約はもちろんのこと、精神的な負担、経済的な不安なども増大する可能性があります。

仕事においては、遅刻や早退が増えたり、急な休みを取らざるを得なくなったりすることがあるかもしれません。また、集中力が低下したり、重要な業務を任されることに躊躇したりすることもあるかもしれません。このような状況が続くと、昇進や異動といったキャリアパスに影響が出ることや、漠然とした将来への不安を感じるようになることは自然なことです。

同時に、ケアに多くの時間とエネルギーを費やす中で、ご自身の趣味や友人との交流といったケア以外の活動がおろそかになりがちです。これにより、社会的な孤立を感じたり、自分自身のアイデンティティが「ケアラー」という役割に偏ってしまったりすることもあります。

将来のライフプランについても、ケアの状況が見通しにくいため、漠然とした計画すら立てにくいと感じるかもしれません。定年後の生活、自身の健康、経済的な備え、といったご自身の将来に関する見通しが立てられないことは、大きな不安につながります。

このように、長期化するケアは、ケアラー個人のキャリアと人生設計に深く関わり、これまでの計画や展望の見直しを迫る現実があるのです。

キャリアとの向き合い方:現在の仕事と将来をどう考えるか

現在の仕事を続けるにせよ、働き方を変えるにせよ、いくつかの視点から考えることが役立つ場合があります。

まず、現在の職場で利用できる制度やサポートについて情報収集をしてみましょう。企業によっては、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、テレワーク、休暇制度(看護休暇、介護休暇など)が整備されている場合があります。また、社内に産業医や保健師、相談窓口があれば、状況を相談してみることも考えられます。上司や人事部門に相談する際は、感情的にならず、事実と要望を整理して伝えることが重要です。どのような制度が利用可能か、またご自身の業務内容でどのような調整が可能かについて、具体的な話し合いを持つことができれば、現在の仕事を継続しながらケアとのバランスを取る道が見つかるかもしれません。

もし、現在の働き方ではケアとの両立が困難な場合、転職や働き方を変えること、あるいは休職や退職といった選択肢を検討することもあるかもしれません。これらの選択は、経済的な側面はもちろん、精神的な側面、そしてその後のキャリアや人生設計に大きな影響を及ぼすため、慎重な検討が必要です。公的なハローワークや民間の転職エージェント、キャリアコンサルタントといった専門家に相談することで、ご自身のスキルや経験、そしてケアの状況を踏まえた上で、現実的な選択肢や、利用できる求職者向けの支援制度などの情報を得ることができます。

また、ケアを通して得られた経験や知識、培われた困難な状況に対処する能力などは、形を変えれば仕事や社会活動においても活かせる場合があります。すぐに具体的なキャリアに結びつかなくとも、ご自身の経験を肯定的に捉え直す視点を持つことも、自身の価値を再認識する上で意味を持つかもしれません。

人生設計の見直し:ケア以外の「私」を大切にする視点

ケアが生活の中心になりがちですが、ケア以外の「私」としての時間や活動を意識的に確保することは、精神的な健康を保つ上で非常に重要です。趣味の時間、友人との交流、学びたいことへの挑戦など、ケアから離れて自分自身が満たされる時間を持つことは、リフレッシュになり、ケアに向き合うためのエネルギーを養うことにもつながります。

ご自身の人生設計全体を見渡すことも大切です。例えば、ご自身の定年後の生活、パートナーとの関係、お子様のことなど、ケア以外のライフイベントや将来の希望と、ケアの状況をどのように統合していくかを考え始めましょう。これは、すぐに具体的な答えが出るものではないかもしれませんが、将来に漠然とした不安を抱えたままにするよりも、少しずつでも考えを整理していくことで、取るべき行動が見えてくることがあります。

理想と現実のギャップに苦しむこともあるかもしれません。「〇〇したいのに、ケアがあるからできない」と感じることは自然なことです。しかし、できないことに焦点を当てるのではなく、「今の状況でできることは何か」「どのようにすれば、理想に少しでも近づけるか」といった建設的な視点を持つことが、心を軽くするために役立つことがあります。完璧を目指すのではなく、今の状況で最善を尽くす、という柔軟な考え方が大切です。

将来的な選択肢を考え始めること、自身の役割の変化への心の準備

家族のメンタルヘルスは、病状の波や年齢による変化など、長期的に見ればその状況が変化していく可能性があります。それに伴い、必要となるケアの内容や量も変化していくかもしれません。早い段階から、将来的に利用できる外部サービス(訪問看護、デイケア、ショートステイなど)や、場合によっては入所施設といった選択肢について情報収集を始めることも、心の準備につながります。

これらの選択肢を検討することは、「家族を見捨てるのではないか」といった罪悪感を伴う場合もあります。しかし、将来にわたってケアラーご自身が健康を維持し、安定した生活を送ることは、結果としてご家族にとっても最善の選択となる場合があります。ご自身の限界を知り、外部のサポートを適切に利用することは、決して後ろめたいことではありません。

将来的なケア体制の変化は、ケアラーご自身の役割の変化も意味します。これまで中心的に担っていた役割を、外部の専門職や他の家族と分担することになるかもしれません。これは解放感につながる一方で、寂しさや役割を失うことへの戸惑いを感じる場合もあります。このような感情の変化についても、心の準備をしておくことが大切です。

一人で抱え込まず、サポートを求めること

自身のキャリアや人生設計について考えることは、非常に個人的な課題であると同時に、外部のサポートや情報が有効な場合が多くあります。

仕事との両立については、勤務先の相談窓口や産業保健スタッフ、ハローワークの両立支援窓口、専門のキャリアコンサルタントなどに相談できます。経済的な不安については、ファイナンシャルプランナーや公的な相談窓口(社会福祉協議会など)が情報を提供できる場合があります。

また、ケア全般に関する相談先としては、地域包括支援センター、精神保健福祉センター、かかりつけ医の相談室、あるいは患者会や家族会といった自助グループがあります。これらの場所では、具体的な制度やサービスの情報を得られるだけでなく、同じような経験を持つ他のケアラーと出会い、悩みを共有したり、共感し合ったりすることができます。自身のキャリアや人生設計に関する悩みは、他のケアラーも抱えている可能性が高く、経験の共有から思わぬヒントを得られることもあります。

最後に:あなたの人生も、大切にされるべき唯一無二のものです

家族のケアは、尊い行為であり、多くの困難を伴います。しかし、その中でケアラーご自身の人生が置き去りにされてしまうことは、誰にとっても望ましいことではありません。自身のキャリアや人生設計と向き合い、必要なサポートを求めることは、ご自身のためだけでなく、結果としてご家族のためにもなる重要なステップです。

完璧な「正解」はありません。状況は常に変化し、その時々で最善と思える選択をしていくことになります。ご自身の心身の健康を最優先に考え、一人で抱え込まず、利用できるリソースや周囲のサポートを積極的に活用しながら、ご自身の人生も大切に歩んでいかれることを願っています。

このテーマについて、他のケアラーの皆様がどのような経験や考えをお持ちなのか、共有していただける機会があれば幸いです。