ケアラーズ・ボイス

家族の身体と心、複数のケアニーズにどう応えるか:複合的な困難への向き合い方

Tags: 複合ケア, 身体疾患, 精神疾患, ケアラー負担, 多重ケア, 情報連携, 社会資源, セルフケア

家族がメンタルヘルスに関する課題を抱えることは、ケアラーにとって様々な困難を伴います。加えて、ご家族が身体的な病気や障害も併せ持っている場合、ケアラーが直面する負担はさらに複雑で重層的なものとなります。身体のケアと心のケア、それぞれ異なる性質を持つニーズに同時に応えようとする中で、心身ともに疲弊を感じていらっしゃる方も少なくないでしょう。

複合的なケアがもたらす特有の負担

身体的なケアが必要な場合、通院や検査の付き添い、服薬管理、食事や入浴などの介助といった具体的なタスクが発生します。これらは時間的、体力的な負担となります。一方、メンタルヘルスに関するケアでは、精神的な不安定さへの寄り添い、複雑な感情や言動への対応、症状の波に合わせたサポートなど、精神的なエネルギーを大きく消耗します。

これらのケアが同時に必要になると、ケアラーは単に二つの役割をこなすだけでなく、それぞれのニーズが互いに影響し合う状況にも向き合わなければなりません。例えば、身体の不調が精神状態を悪化させたり、精神的な不安定さが身体的なケアを困難にしたりすることがあります。また、それぞれの専門医療機関との連携や、異なる制度・サービスの情報を得ることも複雑さを増します。

一つの疾患に対するケアでさえ、情報収集、医療機関とのやり取り、制度の利用など多岐にわたる労力が必要です。それが複数になると、情報が錯綜したり、どの専門家に相談すれば良いのか迷ったりすることもあるでしょう。こうした状況は、ケアラーの心身を深く疲弊させ、孤立感を強める要因となり得ます。

複合的なケアへの考え方と具体的なアプローチ

このような複合的なケアの状況において、どのように向き合い、負担を軽減していくかを考えることは非常に重要です。いくつかの考え方と具体的なアプローチについて述べます。

1. 情報の整理と専門家との連携を丁寧に行う

身体的な問題に関してはかかりつけ医、精神的な問題に関しては精神科医やカウンセラーなど、複数の専門家が関わっていることが多いでしょう。それぞれの専門家が、ご家族の抱える他の問題についても情報を共有し、連携してサポートしていくことが理想的です。ケアラーが両方の専門家に状況を正確に伝え、必要に応じて専門家同士が直接情報交換できるよう促すことも有効です。

例えば、身体的な治療薬が精神状態に影響を与える可能性や、精神的な状態が身体的なリハビリテーションの進捗に影響を与える可能性など、専門家ならではの視点からアドバイスや調整が得られることがあります。ケアラーはそれぞれの専門家から得た情報を整理し、全体像を把握する役割を担うことが求められますが、一人で抱え込まず、可能であれば相談支援の専門家(例: 精神保健福祉士、ケアマネジャー)の力を借りることも検討してください。

2. 優先順位を見直し、現実的な線引きをする

複数のケアニーズに対応しようとすると、「全てを完璧にやらなければ」という気持ちになりがちです。しかし、ご自身の心身を守るためには、全てに対応することは難しいと認識し、現実的な優先順位をつける勇気が必要です。命に関わること、本人の苦痛が大きいこと、社会的なルールや約束に関わることなど、状況に応じて何が最も重要かを判断し、それ以外の部分は外部の支援に委ねる、あるいは一時的に優先度を下げることも選択肢に入れるべきです。

どこまでを自身で担い、どこから外部の支援を求めるか、その線引きはケアラー自身の状況やキャパシティによって異なります。この線引きを考える際に、罪悪感が生じることもあるかもしれませんが、「自分が倒れてしまうと、ケアが必要な家族を誰も支えられなくなる」という視点を持つことも大切です。

3. 利用可能な社会資源を複合的に活用する視点を持つ

身体的なケアには介護保険サービスや訪問看護、精神的なケアには精神科デイケアや相談支援事業など、それぞれ異なる制度やサービスがあります。複合的なニーズがある場合、これらのサービスを組み合わせて利用することで、ケアラーの負担を軽減できる可能性があります。

例えば、身体的なケアで訪問介護を利用しながら、メンタルヘルスの安定のために精神科の訪問看護や相談支援を利用するなどです。それぞれの制度には利用条件や申請方法が異なりますが、地域の包括支援センターや基幹相談支援センター、障害者相談支援事業所などの専門機関に相談することで、ご家族の状況に合わせたサービスの組み合わせや申請方法について具体的なアドバイスを得られます。情報収集は根気がいりますが、利用できる制度を知ることは、ケアの選択肢を広げることに繋がります。

4. 家族全体での協力体制を再検討する

複合的なケアは、一人のケアラーが全ての情報を把握し、全てのタスクをこなすには限界があります。可能であれば、他のご家族(配偶者、きょうだい、成人した子どもなど)と状況を共有し、役割分担や情報共有の方法について話し合う機会を持つことが重要です。

それぞれの得意なこと、関われる時間やエネルギーは異なります。定期的に家族会議のような場を持ち、現状の課題や今後の見通し、それぞれがどのように関われるかなどを話し合うことで、一人の負担を軽減し、家族全体でケアの質を高めることにも繋がります。話し合いが難しい場合でも、手分けして情報収集をする、通院の付き添いを交代するなど、できることから協力体制を築いていくことが望ましいです。

ケアラー自身の心身を守るために

身体と心、複数のケアニーズを抱えるご家族を支えるケアラーの皆様は、常に多大なストレスにさらされています。ご自身の健康は、ケアを続けていく上で最も重要な基盤です。

自身の体調の変化に敏感になり、疲れを感じたら意識的に休息をとってください。眠れない日が続く、食欲がない、何もする気が起きないといったサインがあれば、それは心身が限界に近いという警告かもしれません。そのような時には、迷わず自身の健康を優先し、かかりつけ医や地域の相談窓口、精神保健の専門家にご自身の状況を相談してください。

また、同じように複合的なケアを経験しているケアラーと繋がることも、大きな支えとなります。同じ困難を乗り越えてきた人たちの経験談や工夫は、具体的なヒントになるだけでなく、「自分だけではない」という共感は何よりの心の安らぎを与えてくれます。オンラインや地域のケアラーズカフェ、自助グループなどの利用も検討してみてください。

最後に

家族が身体的な問題とメンタルヘルス問題を併せ持つ状況でのケアは、時に終わりが見えない、孤独な闘いのように感じられるかもしれません。しかし、あなたは一人ではありません。利用できる社会資源は必ずありますし、あなたの経験に共感し、支えになりたいと願っている人々もいます。

全ての困難を一人で解決しようとせず、情報を集め、専門家や支援機関と連携し、そして何よりもご自身の心身を大切にしてください。あなたの健康と安定こそが、ご家族にとって最も必要な支えとなるのです。